グリア線維酸性タンパク質(GFAP)および脳小血管病を指標とした多因子介入効果のメカニズム解明
研究概要
日本では、高齢化に伴い認知症の人が急速に増えています。厚生労働省によると、2025年には470万人、2060年には850万人に達すると見込まれており、認知症を予防することはとても重要な課題になっています。私たちが所属する国立長寿医療研究センターでは、認知症を予防するための多因子介入研究(J-MINT研究)を行いました。この研究では、認知トレーニング、運動、社会参加、栄養指導、生活習慣病の管理を組み合わせたプログラムを18か月間続けていただき、認知機能がどれだけ改善するかを調べました。詳しく調べたところ、APOEε4という遺伝的リスクを持つ人では介入の効果が出やすいことがわかりました。これは海外の大規模研究(FINGER研究やMAPT研究)とも一致する重要な成果です。
さらに、血液中のバイオマーカー(アミロイド、タウ、NfL、GFAPなど)を測定したところ、GFAPという「脳の炎症」を反映する物質が高い人ほど、介入の効果が出やすいことが世界で初めて明らかになりました。GFAPは、脳の中で「アストロサイト」という細胞が活性化したときに増える物質で、アルツハイマー病の進行や認知症のリスクと関係しています。さらに、「脳の血管のトラブル(脳小血管病)」とも関連があることがわかっています。
また、J-MINT研究では、高血圧や血糖値が高い人でも認知機能が改善することが示されました。これらの結果から、私たちは「生活習慣を改善することで脳の血流がよくなり、その結果、脳の炎症が減り、脳小血管病の進行が抑えられて、認知機能の改善につながるのではないか」という仮説を立てました。J-MINT研究では、血液検査のデータやMRI画像を、介入終了後も毎年継続して集めています。本研究では、これらをくわしく解析し、多因子介入が認知機能を改善させるメカニズムを明らかにすることを目指します。
研究のイメージ図
期待される効果
- 認知機能が良くなる仕組みを明らかにすることで、その人に合ったより効果的な予防方法を開発したり、新しい予防ターゲットを見つけることにつながります。
- 今後、J-MINT研究を社会に広く普及していく際に、エビデンスに基づいた多因子介入を、より効果が期待できる人へ確実に届けられるようになります。
- 本研究が進むことで、認知症予防医学の発展が促され、認知症を発症する人や重症化する人の割合が減ることが期待されます。結果として、認知症の方の生活の質(Quality of Life)が向上し、介護者の負担軽減や医療・介護費の削減にもつながります。
主任研究者
小野山 絢香(国立長寿医療研究センター 予防科学研究部 特任研究員)
私はこれまで10年以上、作業療法士として病院で認知症の患者さんに関わらせて頂きました。その中で、経済的・物理的な理由から一人暮らしに戻らざるを得ない方や、認知症の影響でお薬の管理がうまくできず、入退院を繰り返してしまう方など、さまざまな困難な場面に直面してきました。
一度認知症を発症すると、元の生活を取り戻すことは容易ではありません。これまでの臨床経験を通して、一人でも多く、認知症を発症する方や重症化していく方を減らしたいという強い思いを抱くようになりました。その思いを原動力に、本研究に真摯に取り組んでまいります。
分担研究者
【国立循環器病研究センター】
脳神経内科 山口 枝里子

