開催報告
JHリトリート2025「ゲノム解析が切り拓く新たな医療の展開」を令和7年6月7日(土)国立研究開発法人国立がん研究センター(研究棟・管理棟)にて開催しました。
今回は、患者さん一人ひとりの体質や病態にあった予防・治療の開発に革新的進歩をもたらす「ゲノム医療」をメインテーマに掲げ、ナショナルセンターや厚生労働省で活躍する先生方に最新の知見を講演いただくとともに、若手研究者のポスターセッションを開催し、ナショナルセンターの研究者・医療者の交流を図りました。
また、優秀なポスター演題については、理事長賞及びJH本部長賞の表彰を行い、賞状及び盾を授与しました。
今回のJHリトリート2025は、研究・医療関係者など約310名の皆様にご参加いただきました。
講演発表 13:00~15:00
講演者 | 演題名 |
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加藤 元博 東京大学医学部附属病院 小児科、 国立成育医療研究センター 小児がんセンター | 小児・AYAがんゲノム医療の全国プラットフォームの構築と展開 |
考藤 達哉 国立健康危機管理研究機構 国立国府台医療センター 肝炎・免疫研究センター | 空間的遺伝子発現解析による肝がん病態の研究 |
武田 はるな 国立がん研究センター 研究所 分子遺伝学ユニット | 大腸がん悪性化における炎症微小環境の役割 |
河野 隆志 国立がん研究センター がんゲノム情報管理センター | がん遺伝子パネル検査の実装とC-CATを通じたデータ利活用 |
松浦 祐史 厚生労働省医政局研究開発政策課医療イノベーション推進室 | 全ゲノム解析等に係る我が国の取り組みについて |
講演の様子
ポスターセッション 15:10~17:10
以下、カテゴリー別に分かれて演題登録者から発表しました。発表については、対面のフリーディスカッション形式で行いました。
区分 | 時間 | カテゴリー |
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第1クオーター | 15:10~15:40 | 02.循環器、19.精神、20.指定演題 |
第2クオーター | 15:40~16:10 | 03.内分泌・代謝、07.神経、16.感覚器、18.産婦人科、20.指定演題 |
第3クオーター | 16:10~16:40 | 06.血液、08.アレルギー・膠原病、09.感染症、11.老化、12.難病・希少疾患、13.性線、14.救急・外傷、20.指定演題 |
第4クオーター | 16:40~17:10 | 01.消化器、04.腎臓・尿路、05.呼吸器、10.発達・成長、17.疫学・公衆衛生 |
プログラム https://jh-ret2025.mq-con.jp/program/
応募総数:183題 ポスター発表:145題 紙上発表:38題
ポスターセッションの様子
理事長表彰およびJH本部長表彰
JHリトリート2025ポスターセッションにおける理事長賞およびJH本部長賞の表彰式を行いました。
国立がん研究センター
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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橋本 直佳 (東病院 消化管内科) | Pan-cancer Molecular Residual Disease Assessment Using Whole-genome Sequencing-based ctDNA Panel in MONSTAR-SCREEN-3 |
【受賞コメント】
この度は、JHリトリート2025理事長賞という栄誉ある賞を賜り、身に余る光栄に存じます。間野理事長をはじめ、選考委員の先生方、ご指導いただいたSCRUM-MONSTARグループの先生方、本研究にご参加いただいた皆様に、心より感謝申し上げます。今回受賞した全ゲノム解析を応用したctDNAによる分子的残存病変(MRD)評価に関する研究は、がん種横断的に高感度なMRD検出を可能とするものであり、周術期がん個別化医療の発展に寄与できるものと考えております。この受賞を励みとし、今後ともがん個別化医療のさらなる発展に貢献できるよう、一層の精進を重ねて参る所存でございます。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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堀井 俊宏 (先端医療センター機能診断開発分野(柏)、東病院 放射線診断科) | 明細胞型腎細胞癌を対象とした64Cu-PD-32766のFirst-in-Human(第0相)試験 |
【受賞コメント】
この度の受賞を心から感謝いたします。この研究の実施にあたり、先端医療開発センター機能診断開発分野の稲木杏吏先生、吉本光喜先生をはじめ、当院の多くの先生方のご指導とご支援に支えられ、この成果を得ることができました。今後も多くの患者さんが、核医学治療領域において、より良い診断・治療を受けられるように、一生懸命研究を続けてまいります。この度の受賞について、重ねてお礼申し上げます。
国立循環器病研究センター
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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黒田 健仁 (病院 脳神経内科) | High utility of MRI-ASL to assess cerebral blood flow in CADASIL |
【受賞コメント】
この度はJHリトリート2025において理事長賞を賜り、誠に光栄に存じます。今回の研究では、CADASIL患者を対象にMRI-ASLによる脳血流評価を行い、その値が認知機能と良好に相関することを示し、疾患の進行を評価する有用なバイオマーカーである可能性を示しました。本研究の発表にあたり、ご指導・ご助言を賜りました齊藤先生、猪原先生をはじめ、関係者の皆様に深く感謝申し上げます。 また、今回のリトリートでは、異分野の研究者の皆様との交流を通じて、多くの刺激を得ることができました。このような貴重な機会を企画・運営してくださった皆様に、心より御礼申し上げます。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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四宮 春輝 (研究所 病態ゲノム医学部、病院 ゲノム医療支援部) | 核膜蛋白TMEM43変異が引き起こす心筋症および筋疾患の病態メカニズムの解明 |
【受賞コメント】
このたびは栄誉ある賞を賜り、誠にありがとうございます。今回、若年性心臓突然死の一家系から原因遺伝子を同定したことを契機に、核膜蛋白TMEM43の異常蓄積が引き起こす心筋・骨格筋障害の分子機序を明らかにした研究を発表させていただきました。研究の遂行にあたりご指導くださった朝野仁裕部長をはじめ、共同研究者の皆様に心より御礼申し上げます。また、日々の研究活動を支えてくださっている技術補佐員や秘書の皆様にも深く感謝申し上げます。今回の受賞を励みに、今後も基礎と臨床をつなぐ研究に真摯に取り組んでまいりたいと思います。
国立精神・神経医療研究センター
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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白柿 早瞳 (神経研究所 遺伝子疾患治療研究部) | Inhibition of xanthine oxidoreductase by ameliorates skeletal muscle atrophy and exercise intolerance in dystrophic mice |
【受賞コメント】
この度は、このような光栄な賞をいただき、誠にありがとうございます。尿酸代謝阻害薬フェブキソスタットが骨格筋の機能に有益な効果を示す可能性について発表しました。研究へのご指導・ご協力を賜った先生方には深く感謝申し上げます。リトリートでは多くの刺激と示唆を得ることができ、今後の研究の励みとなりました。この経験を今後の研究に活かしていきたいと思います。今後ともご指導ご鞭撻のほど、何卒よろしくお願い申し上げます。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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安藤 めぐみ (神経研究所 疾病研究第二部) | 非細胞死性のカスパーゼ活性化が、マイクログリアによる補体依存的なシナプス貪食を介して神経回路を再編成する |
【受賞コメント】
この度は栄誉ある賞をいただき誠にありがとうございます。ご指導いただいた小山先生をはじめ、本研究に参加いただいた先生方に心より感謝申し上げます。受賞研究は脳内免疫細胞によるシナプス刈り込みのメカニズムを明らかにしたもので、本研究がシナプス刈り込みの異常が関わる様々な脳疾患の病態解明の一助となれば幸いです。今後も研究に邁進し、国立精神・神経医療研究センターの利点である病院との強い連携を活かしたトランスレーショナルリサーチの実現を目指したいと思います。
国立健康危機管理研究機構
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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馬本 恒太朗 (国立国際医療センター 糖尿病内分泌代謝科) | マルチオミックス手法を用いた糖尿病合併症の病態解明 |
【受賞コメント】
JHリトリート2025で理事長賞を受賞することができ、大変光栄に存じます。
今回、糖尿病治療のため入院された患者様の血液・糞便検体のマルチオミックス解析を通じた、糖尿病の合併症・発症に関係する因子の探索について発表を行いました。
今回の発表にあたりご指導いただきました、糖尿病研究センターの植木浩二郎先生、坊内良太郎先生、添田光太郎先生をはじめ多くの先生方に感謝申し上げたいと思います。
今回の受賞を励みとして、糖尿病の病態解明や新規治療法開発の実現に向けて、一層研究に精進してまいりたいと思います。
國土 典宏 理事長がご欠席のため、宮嵜 英世 理事から表彰状が代理授与されました。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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藤田 進也 (国立国際医療研究所 生体恒常性プロジェクト) | Piezo1 mechanosensing is a druggable target for hematopoietic stem cell homing to bone marrow |
【受賞コメント】
この度、JHリトリート2025においてJH本部長賞に選出いただき、心より御礼申し上げます。本研究での in vivo imagingは当研究室の森川研究員が担当しており、その貢献に感謝しております。また、使用した遺伝子改変マウス(ノックアウトマウス、機能獲得型マウス)は、共同研究者の皆様よりご提供いただいたものです。日頃よりご指導くださっている造血システム研究部の田久保圭誉先生をはじめ、多くの方々のご協力のもとで本研究を進めることができていることを改めて実感しており、この場をお借りして御礼申し上げます。本研究を論文化にあたり、このような賞を頂けたことは大きな励みとなり、今後も一層研鑽を重ね、研究に貢献してまいります。
国立成育医療研究センター
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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増渕 颯 (研究所 分子内分泌研究部) | OCT4/SOX2結合部位の異常に伴うBeckwith-Wiedemann症候群の頻度とロングリードシーケンスによるメチル化パターンの解明 |
【受賞コメント】
この度はJHリトリート理事長賞受賞の栄誉に預かり大変光栄に存じます。ロングリードシーケンサーを用いて、Beckwith-Wiedemann症候群のDNAメチル化プロファイルを詳細に解析しました。ニッチな内容にも関わらず、皆様の注目を得られたこと、大変嬉しく思います。研究の過程で当初思っていた以上に新たな発見があり、私にとっては研究の面白さに触れるきっかけとなる演題でした。引き続き精進していきたいと思います。最後にご指導いただきました国立成育医療研究センター分子内分泌研究部の鏡雅代先生、深見真紀先生はじめ共同研究者の先生方、皆様に深く感謝申し上げます。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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吉井 祥子 (研究所 再生医療センター 生殖医療研究部、千葉大学医学部附属病院 小児科) | マイクロ流体デバイスを用いた髄鞘オルガノイドの構築と応用 |
【受賞コメント】
JHリトリート2025において本部長賞を賜り大変光栄に存じます。本研究ではヒト多能性幹細胞からニューロンやグリア細胞を誘導し、ヒト髄鞘発生を模倣する髄鞘オルガノイドの構築を目指しました。今回の受賞を励みに今後も研究に尽力いたします。国立成育医療研究センター研究所再生医療センターの阿久津先生、梅澤先生をはじめ、ご指導・ご支援いただいた皆様に心より御礼申し上げます。
国立長寿医療研究センター
<理事長賞>
受賞者 | 演題名 |
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近藤 遼平 (研究所 研究推進基盤センター バイオセーフティ管理室) | DOCK11はマクロファージの遊走とサイトカイン分泌を制御する |
【受賞コメント】
この度はJHリトリート2025においてこのような名誉ある賞を賜り、大変幸甚に存じます。2023年度に我々を含む共同研究チームが新たな遺伝子疾患であるDOCK11欠損症をThe New England Journal of Medicineに報告しました。本研究はマクロファージを用いて疾患の原因解明に取り組んだものになります。この受賞を励みに、より一層研究活動に精を出し、患者さんに少しでも希望を届けられるよう頑張りたいと思います。また、本研究は指導教官の錦見昭彦先生のご指導、また本研究に携わってくださった方々のおかげで達成できました。この場をお借りしてお礼を申し上げたいと思います。誠にありがとうございました。
<JH本部長賞>
受賞者 | 演題名 |
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廣瀬 美嘉子 (研究所 ジェロサイエンス研究センター 細胞病態研究部) | 肺胞再生メカニズムにおける老化細胞の影響と核内受容体の関与 |
【受賞コメント】
この度の受賞を心より感謝いたします。今回の発表では、老化細胞が慢性呼吸器疾患の肺気腫モデルマウスにおいて、肺の再生を抑制することを示唆するデータを紹介しました。肺気腫はCOPDの主要病態のひとつで、肺胞壁が破壊される進行性の疾患であり、根本的な治療法がありません。今後も、老化細胞の役割に注目しながら、肺気腫だけでなく、根本的な治療法のない疾患の治療基盤を見つける研究を進めていきたいと考えております。
理事長賞及びJH本部長賞受賞者による記念撮影